記憶の再固定化メカニズムの臨床応用
1. プロプラノロールを用いた薬物併用療法
カナダの心理学者アラン・ブリュネらが提唱した「Brunet法」は、記憶の再固定化に不可欠なノルアドレナリンを抑制する画期的な手法です。
- メカニズム: β遮断薬のプロプラノロールを投与し、記憶が不安定化した際のタンパク質再合成において、恐怖反応を司る回路の強化を阻害します。
これを数回繰り返すことで、出来事の「事実」は残しつつ、それに付随する激しい
「恐怖反応」だけを特異的に減弱させることが可能です。
2. 行動的干渉:Monfils-Schiller パラダイム
薬物を使わず、想起の「タイミング」を調整するアプローチです。記憶を一度「解凍」した直後の数時間は、内容が柔軟で書き換えやすい「再固定化の窓」が開いています。このタイミングで集中的な曝露(安全の学習)を行うことで、恐怖の再発を劇的に抑えます。
3. EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
トラウマ想起中に眼球運動を行うことで作業記憶に過負荷をかけ、再固定化される際に記憶の「鮮明さ」や「感情的インパクト」が低下した状態で保存されると考えられています。
4. イメージ・レスクリプティング(書き換え)
トラウマ場面を想起し、イメージの中で介入して結末を書き換える技法です。不安定な記憶に対し、「自己効力感」や「安全感」という新しい情報を統合させます。
臨床上の課題
実臨床では、想起後10分〜数時間以内という「再固定化の窓」の厳格な管理や、一度の想起では不安定化しないほど強固な記憶への対応が課題となります。