抑圧された記憶の神話④ ロフタスが変えた司法 ~司法面接創設~

   

ロフタスが変えた司法 ~司法面接創設~

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1. 司法面接(Forensic Interview)の確立

子どもの証言の信頼性を守るため、暗示を徹底的に排除した「司法面接」が開発されました。その代表例がNICHDプロトコルです。
  • オープンエンド質問の徹底: 誘導(cued recall)ではなく、「何があったか最初から全部話して」という自由回想(free recall)を最優先します。
  • 「わからない」を奨励: 面接の冒頭で「わからない時はそう言っていいんだよ」と伝え、子どもの迎合性を抑制します。
  • 段階的プロセス: 記憶の汚染を防ぐため、暗示性の低い質問から段階的に進める厳格な構造がとられています。

2. 「歴史的真実」から「物語的真実」への峻別

精神分析学者のドナルド・スペンスが提唱した概念ですが、ロフタス以降、臨床現場ではこの区別がより厳格になりました。
  • 歴史的真実: 実際に客観的に起こった事実。
  • 物語的真実: 患者が現在抱いている主観的な記憶の構成。
  • 臨床的態度の変化: セラピストは「事実を掘り起こす探偵」ではなく、「苦痛を緩和し、適応的な物語を再構築するパートナー」であるという認識が定着しました。

3. 誘導的な技法の放棄とガイドラインの整備

かつて「記憶回復」のために多用された技法は、現在では多くの学会で慎重な扱いが求められています。
  • 催眠・イメージ療法の制限: 偽記憶を誘発する「暗示性の高い技法」として、法廷での証言能力を失わせる要因になります。
  • トラウマ・インフォームド・ケア(TIC): 事実を暴くことよりも、患者が受けているトラウマの影響に焦点を当て、安全な環境を提供することを優先します。

4. 証拠法における変化(科学的妥当性の要求)

法廷においても、ロフタスらの研究は証拠の採用基準に影響を与えました。
  • 専門家証言の役割: 認知心理学者が「人間の記憶がいかに変容しやすいか」を裁判官らにレクチャーすることが一般的になりました。
  • 「回復された記憶」の証拠能力: 物的証拠がない限り、セラピーを通じて蘇ったという証言だけでは、有罪判決を下すことが困難になりました。
まとめ:記憶の「保護」から「検証」へロフタスの論争が残した最大の遺産は、「善意による聞き取りが、真実を破壊することがある」という教訓です。精神医学は「記憶をいかに汚染せずに取り扱うか」という、より慎重で科学的なアプローチへと進化しました。