睡眠薬や抗不安薬の、依存性メカニズム
「最近、寝つきが悪くて……」「不安で仕事が手につかない」そんな時に処方される、ベンゾジアゼピン系(以下、ベンゾ)と呼ばれるお薬。不安を和らげ、眠りを導いてくれる心強い味方ですが、一方で「一度飲み始めたら、止められなくなるのでは?」という不安を抱えている方も少なくありません。
なぜ、ベンゾには「依存性」があるのでしょうか?その理由は、単に意志が弱いからではなく、私たちの脳の仕組みそのものに深く関わっています。今回は、そのメカニズムを分かりやすく解き明かしてみましょう。
1. 脳の「ブレーキ」をさらに強く踏む
私たちの脳の中には、興奮を抑える「ブレーキ」の役割を果たすGABA(ギャバ)という物質があります。ベンゾは、このブレーキの効きを一時的に強めることで、不安を鎮めたり眠気を誘ったりします。 しかし、ここには巧妙な罠が隠されています。 脳の深い部分には、快感ややる気を生み出す「報酬系」という場所があります。通常、この報酬系が暴走しないよう、別の神経が「ブレーキ」をかけています。ところがベンゾを飲むと、あろうことか「報酬系のブレーキ役」に対してブレーキをかけてしまうのです。 これを専門用語で「脱抑制(だつよくせい)」と呼びます。 その結果、ブレーキが外れた報酬系からは、快感をもたらす物質「ドーパミン」がどっと放出されます。これが、お酒を飲んだ時のような「ホッとする感覚」や「心地よさ」を生み出し、「またあの感覚が欲しい」という依存の第一歩となってしまうのです。2. 脳が「慣れて」しまう:耐性の正体
ベンゾを飲み続けていると、多くの人が「最初はよく効いたのに、最近は効き目が薄れてきた」と感じます。これが「耐性」です。 私たちの脳は、常に一定のバランスを保とうとする「恒常性(ホメオスタシス)」という優れた機能を持っています。ベンゾによって外から強力なブレーキがかけられ続けると、脳は「これでは活動が抑えられすぎてしまう!」と判断し、以下のような対策をとります。- ● 受け皿を減らす: 薬を受け取る場所(受容体)の数を減らす。
- ● 感度を下げる: 薬の刺激に対して反応しにくくする。
3. 止める時の「リバウンド」が怖い
依存を断ち切るのを最も難しくさせるのが、薬を減らしたり止めたりした時に現れる「離脱症状」です。 先ほどお話しした通り、脳は薬のブレーキに対抗するために、自ら「興奮系のアクセル」を強めてバランスを取っています。ここで急に薬(ブレーキ)を外すとどうなるでしょうか? アクセル全開の状態だけが残り、脳内は大混乱に陥ります。- ● 反跳性不眠(はんちょうせいふみん): 飲む前よりもひどい不眠に襲われる。
- ● 激しい不安やイライラ: 神経が過敏になり、音や光に敏感になる。
- ● 身体の震えや動悸: まるでアクセルが故障した車のように、身体が勝手に高ぶってしまう。
4. ベンゾと上手に付き合うために
ここまで読むと「ベンゾは怖い薬だ」と感じるかもしれません。しかし、ベンゾは決して「悪者」ではありません。急性期の強い不安や不眠に対して、これほど即効性があり、多くの人を救ってきた薬も他にないからです。 大切なのは、「道具としての使い方」を間違えないことです。| 依存を防ぐためのポイント | 内容 |
|---|---|
| 短期集中で使用する | 漫然と数ヶ月、数年と続けない。 |
| 自分の判断で増やさない | 効かないからといって勝手に追加しない。 |
| ゆっくりと出口を探す | 止める時は「年単位」で少しずつ減らすこともある。 |
| 依存性の低い代替薬を知る | 最近は、報酬系に作用しない新しいタイプの睡眠薬も増えています。 |
