生物史のブレイクスルー ②感覚運動系の成立と食物網の複雑化
生物史のブレイクスルー ②感覚運動系の成立と食物網の複雑化
動物が「世界を感じ、動き、食べる」まで
前回は、酸素呼吸、ミトコンドリア、有性生殖、多細胞化を取り上げた。これらは、多数の細胞からなる複雑な個体を成立させるための基盤であった。しかし、多細胞になっただけでは、今日の意味での「動物」にはならない。環境の変化を感知し、その情報を体内で伝え、筋肉を協調させて移動する仕組みが必要である。
獲物を探し、捕らえ、逆に捕食者から逃げる動物が登場すると、他の生物も変化を迫られる。速く泳ぐ者が現れれば、それを追う者と逃げる者が進化する。殻をもつ者が増えれば、殻を破る歯や顎が発達する。眼が遠方の獲物を発見すれば、擬態や潜伏も有効になる。
このように、感覚器、神経、筋肉、骨格、摂食器官の発達は、生物同士の相互作用を増やし、生態系を単純な「食物連鎖」から複雑な「食物網」へ変えていった。
神経と筋肉 〜情報を運動へ変える
外界の刺激に反応する能力は、動物より古い。単細胞生物も、光、化学物質、温度、接触などを感知し、鞭毛運動や細胞の変形によって好ましい場所へ移動する。イオンチャネル、細胞内情報伝達、分泌装置、アクチンとミオシンによる収縮など、後に神経や筋肉で使われる分子的な部品の多くは、動物の出現以前から存在していた。
多細胞化によって生じた新しい課題は、一つの細胞が刺激に反応することではなく、離れた場所にある多数の細胞を協調させることであった。身体の前方が餌を感知したとき、後方の筋肉まで適切な順序で収縮させなければ、個体として餌に近づくことはできない。ここから、刺激を受け取る感覚細胞、情報を伝達する神経細胞、力を発生する筋細胞という分業が進んだと考えられる。
海綿動物は、通常の意味での神経細胞や筋細胞をもたない。しかし、神経分泌細胞に似た性質の細胞や、体表の収縮を調節する細胞群を備え、水流や化学刺激に応じて全身の運動を変えることができる。神経系は完成品として突然出現したのではなく、感覚、分泌、電気的興奮、収縮という古い機能が、次第に専門化され、接続されることで成立したのである。
ただし、神経系が進化史上ただ一度だけ成立したのかは、まだ完全には決着していない。有櫛動物は独特な神経系をもち、他の動物とは異なる神経伝達の仕組みを利用している。動物の系統樹のどこに有櫛動物を置くかによって、神経系を共通祖先から受け継いだと考えるか、独立に発達したと考えるかが変わるからである。横紋筋についても、左右相称動物と刺胞動物で独立に組み立てられた可能性が示されている。
進化は、一つの設計図を一方向に改良する過程ではなく、古い部品を何度も異なる形に組み直す過程なのである。
左右相称と頭部化 〜進む方向が「前」をつくった
クラゲやイソギンチャクのような放射相称の身体は、周囲のあらゆる方向から刺激や餌が来る生活に適している。これに対して、一定の方向へ移動する動物では、進行方向と反対方向が区別される。身体に「前」と「後」が生まれ、それに直交して背腹、左右の軸が定まった。
移動するとき、最初に新しい環境へ接するのは身体の前端である。そのため前端に化学受容器、光受容器、平衡器などを集め、同時に口と神経組織を配置することが有利になる。これが頭部化である。頭部は単なる身体の飾りではない。情報の入口、餌の入口、運動制御の中枢を近接させることで、「感じる、選ぶ、近づく、食べる」という一連の行動を高速化した装置であった。
左右に配置された筋肉を交互に収縮させれば、身体をくねらせて一定方向へ進める。体節構造が加われば、身体の各部分を半ば独立した運動単位として制御できる。さらに付属肢が発達すると、歩脚、遊泳肢、触角、口器などへの機能分化が可能になった。節足動物の成功は、外骨格だけではなく、体節と関節肢という「改造可能なモジュール」を得たことに支えられている。
もっとも、左右相称が放射相称より「高等」という意味ではない。放射相称は固着生活や浮遊生活に今なお有効であり、多くの動物が繁栄している。左右相称は、方向性のある能動運動という特定の生活様式に適した設計であった。
眼の発達 〜接触する前に世界を知る
光を感じることと、像を見ることは同じではない。初期の光受容細胞は、昼夜や水深、接近する影など、明暗の変化を検出したと考えられる。光受容細胞の一方に遮光色素が置かれれば、光の方向が分かる。受容面がくぼめば、異なる方向から来る光を区別できる。さらに開口部が狭くなり、レンズが加われば、感度と解像度が向上する。それぞれの中間段階にも、定位や逃避という利益があるため、完成した眼が一度に出現したと考える必要はない。
脊椎動物や頭足類のカメラ眼と、節足動物の複眼は構造が大きく異なる。高性能な像形成眼は、複数の動物系統で独立に組み立てられたと考えられる。一方、光を受け取るオプシンや眼の発生を制御する遺伝子など、材料となる「部品箱」には共通祖先から受け継いだものが多い。同じ古い部品を用いながら、異なる構造の眼が作られたのである。
約5億1500万年前の初期カンブリア紀には、すでにきわめて高性能な複眼が存在した。大型捕食動物アノマロカリスの眼は直径数センチメートルに達し、片眼に少なくとも約1万6000個の個眼を備えていた。約5億2000万年前の節足動物化石からは、眼からの情報を処理する複雑な視葉も見つかっている。カンブリア紀は、高度な視覚と視覚誘導行動が海の生態系を変え始めた時代と言える。そして、アノマロカリスの繁栄は、まさに高度な視覚がもたらせたものと言えるであろう。
視覚の重要性は、離れた対象の位置、方向、速度を、接触する前に推定できる点にある。捕食者は獲物を発見して追跡し、被食者は捕食者を早く見つけて逃げることができる。すると、速い遊泳、急旋回、棘、殻、擬態、潜伏といった対抗手段が選択される。さらに、それを見破る視覚や行動が進化する。この捕食者と被食者の「進化的軍拡」が、カンブリア紀における動物の多様化を加速した可能性は高い。
ただし、眼だけをカンブリア爆発の原因とすることはできない。酸素濃度の上昇、発生制御遺伝子群の発達、生体鉱物化、海洋環境の変化など、複数の要因が重なっていた。また、眼球だけでは「見る」ことはできない。輪郭や動きを抽出する神経回路、それに基づいて筋肉を動かす仕組みが必要である。眼の進化とは、光学器官だけでなく、「眼―神経系―行動」という統合システムの進化だった。
硬い身体 〜防具であると同時に運動装置
先カンブリア時代末からカンブリア紀初頭にかけて、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカなどを用いる生体鉱物化が、複数の動物系統で独立に発達した。殻や棘、装甲は捕食者に対する防御となる。同時に、硬い骨格は筋肉の力を受け止める支点となり、収縮力を効率よく移動へ変換した。
節足動物の外骨格は、防具と運動のてこを兼ねている。関節部分を残して硬化させることで、丈夫さと可動性を両立させた。ただし外骨格には、成長のために脱皮を要し、脱皮直後には無防備になるという代償がある。一方、内骨格は身体とともに成長でき、筋肉の付着部を体内に確保できる。外骨格から内骨格へ進歩したのではなく、異なる系統がそれぞれの生活様式に適した支持構造を発達させたのである。
硬組織は化石として残りやすい。そのため、カンブリア紀に動物が急増したように見える理由の一部には、それ以前の柔らかい動物が化石記録に残りにくいという偏りもある。生物の多様化と、化石として見えるようになったことを区別する必要がある。
脊椎動物型身体設計 〜脊索、頭蓋、内骨格、対鰭
脊椎動物の身体の中心には、まず脊索があった。脊索は硬い骨ではなく、弾力のある棒状構造である。左右の体節筋が交互に収縮すると、脊索がその力を受け止め、身体を波打たせる効率的な遊泳が可能になる。脊柱は脊索がそのまま骨へ変化したものではなく、後に脊索と神経管の周囲へ椎骨要素が段階的に加わって成立した。
身体の前端には頭蓋が形成され、脳と感覚器が保護された。さらに神経堤細胞や感覚プラコードという発生上の仕組みが、頭蓋顔面、末梢神経、色素細胞、眼、鼻、内耳などの形成を支えた。脊椎動物は、単に背骨を得た動物ではない。精密な感覚器、それを統合する脳、身体を支える内骨格、強い体節筋を一体化した「新しい頭と運動系」を獲得した動物である。
対になった鰭も段階的に加わった。対鰭は推進力を生むだけでなく、揚力、制動、旋回、姿勢の制御を改善した。高速で泳ぐためには、筋力だけでなく、身体を安定させる制御面が必要である。対鰭は、後に陸上脊椎動物の四肢へ転用される発生学的基盤にもなった。
「脊椎の獲得」という一語で説明すると、脊索、頭蓋、椎骨、内骨格、対鰭が一度に完成したように聞こえる。しかし実際には、それぞれが異なる時期に成立し、統合されていったモザイク進化であった。
顎の誕生 〜食べられるものを作り替える
初期の脊椎動物には顎がなく、水中の小さな有機物を吸い込む、あるいは他の生物に吸着するなどの方法で摂食していた。顎は、最前方の咽頭弓を含む頭部の発生プログラムが再編され、上下に開閉する装置として成立した。ただし「一本の鰓弓がそのまま顎になった」という説明では不十分である。神経堤細胞、骨格、筋肉、関節、神経支配などを同時に調整する発生機構の変化が必要だった。
顎を得ると、動物は餌を単に口へ流し込むだけでなく、捕らえ、切り、噛み、砕くことができる。さらに歯や歯列が加わることで、硬い殻、植物、肉、小さな浮遊生物など、異なる餌に適した摂食装置が発達した。顎口類は捕食者だけでなく、濾過食者、底生動物食者、植物食者など、多数の栄養ニッチへ進出した。
顎が捕食を発明したわけではない。捕食者は顎口類よりはるか以前から存在していた。顎の意義は、摂食の方法と対象を大幅に増やし、脊椎動物が食物網のさまざまな位置を占められるようにしたことにある。
食物「ピラミッド」から食物「網」へ
生態系は、しばしば生産者(注)、草食動物、肉食動物を積み上げたピラミッドとして描かれる。この図はエネルギー量の減少を理解するには有用だが、生物間関係の複雑さを表すには十分ではない。実際の動物は、成長段階や季節によって餌を変え、捕食者であると同時に別の動物の獲物にもなる。死骸や糞を利用する動物、海水中の粒子を濾過する動物、海底の堆積物を食べる動物もいる。生態系の複雑化とは、単に栄養段階が高くなることではなく、摂食様式と生物間の結び付きが増えることである。
(注)生産者:外部のエネルギーを利用して、二酸化炭素などの無機物から有機物を合成する「一次生産者」を指します。代表例は、陸上植物、藻類や植物プランクトン、シアノバクテリアなどです。
動物は環境を利用するだけでなく、環境そのものも作り替えた。先カンブリア時代の海底には、微生物マットが広く発達していた。動物が海底を這い、穴を掘り、堆積物を飲み込むようになると、平面的だった海底は徐々に三次元的な生息空間へ変化した。動物による堆積物の撹拌、すなわち生物撹拌は、酸素を堆積物内部へ運び、栄養塩の循環や微生物活動を変化させた。巣穴は隠れ場所となる一方、別の動物の生活場所にもなった。動物は最初期から「生態系エンジニア」でもあったのである。
遊泳動物は海中と海底の結び付きも強めた。水中で取り込まれた有機物が糞や死骸として海底へ運ばれ、海底の栄養物が掘り返されて水中へ戻る。捕食、濾過、腐食、堆積物食が結ばれることで、食物網は空間的にも立体化した。
カンブリア爆発とは、数百万年のうちに完成した動物が一斉に出現した事件ではない。先カンブリア時代から準備されていた感覚、収縮、発生制御、摂食の仕組みが、数千万年にわたって組み直され、生物同士の相互作用によって急速に多様化した過程であった。
医学から見た感覚運動系
私たちは、感覚系と運動系を別々の器官として学ぶ。眼科、耳鼻咽喉科、神経内科、脳神経外科、整形外科など、診療科も分かれている。しかし進化の観点から見ると、感覚と運動は初めから一つの機能単位である。
感覚器は、それ自体のために世界を表現するのではない。餌に近づく、危険から逃げる、姿勢を保つ、仲間を選ぶなど、行動を調節するために情報を得る。逆に、動けば感覚入力も変化する。眼球を動かし、頭を回し、対象に近づくことで、初めて得られる情報もある。感覚から運動へ一方向に命令が流れるのではなく、行動によって次の感覚が変わる閉ループを形成している。
臨床でも、筋力が保たれていても深部感覚や前庭感覚が失われれば、正確に立ち、歩くことは難しい。視力が正常でも、脳内で空間情報を統合できなければ、対象へ適切に手を伸ばせない。小脳障害では運動を開始できても、誤差を修正し続けることができない。これらは、感覚、情報統合、運動が切り離せないことを示している。
人間の抽象的思考や言語を担う脳も、その基礎には、環境を予測し、身体を動かし、結果を感覚として受け取る古い回路をもっている。脳は最初から思索するために生まれたのではなく、多細胞の身体を一つの行動主体としてまとめるために発達したのである。
感じて動くことが、他者の進化を促した
感覚運動系の成立によって、動物は環境に受動的に反応する存在から、餌を探し、場所を選び、他の生物へ働きかける存在になった。眼が運動を促し、速い運動が骨格を必要とし、硬い防御が顎や歯を発達させる。捕食者の革新は被食者の革新を促し、その防御が再び捕食者を変化させる。この循環によって、生物は互いにとっての「進化環境」となった。
本稿で述べた変化は、進化の階段を一段ずつ上る過程ではない。眼、骨格、顎、神経系は複数の系統で異なる形に発達し、現在も単純な身体構造の動物が多数繁栄している。重要なのは、どの動物が高等かではなく、それぞれの革新が、それまで利用できなかった情報、運動様式、餌、生息空間を開いたことである。
次回は、動物が海や水辺の制約を離れ、乾燥、重力、温度変化に対処していく過程を取り上げる。肺と四肢、羊膜、内温性、気嚢と直立型肢勢、そして人類の二足歩行と言語・累積文化である。そこでは適応の舞台が身体内部から外部環境へ、さらに遺伝子から文化へと拡張されていく。
著者あとがき 〜『三葉虫』:特別な武器ではなく、特異な変化への“柔軟性”がもたらした繁栄
このコラムでは、種の繁栄の原因となった「特別な武器」をみてきています。この為、触れられませんでしたが、この時代に「特別な武器」を持たないにも関わらず、圧倒的な成功を収めた生物がいます。そう、三葉虫です。三葉虫は約5億2100万年前のカンブリア紀初期に登場し、ペルム紀末までの約2億7000万年もの間、世界中の海で繁栄し続けました。知られている種類は2万種を超えます。これほどの繁栄を来した種は、他に類を見ません。
三葉虫が長く繁栄できた最大の理由は、「特別な武器」ではなく、「体の設計そのものの柔軟さ」にありました。三葉虫は巨大な体や強力な攻撃器官を持っていたわけではありません。代わりに、防御・移動・呼吸・摂食・感覚といった複数の機能を、ひとつの基本的な体構造の中で巧みに統合していたのです。
まず防御面では、背中の石灰質の外骨格が「鎧」と「骨組み」の二役を担っていました。捕食者から身を守るだけでなく、筋肉を支えて脚の力を効率よく伝える役割も果たしていたのです。一方で腹側や脚は柔らかく、その弱点を補うために多くの三葉虫は体を丸め、弱い部分を殻の内側に完全に隠す防御戦略を発達させました。これは「硬さ」と「柔らかさ」を組み合わせた高度な防御でした。
次に運動と呼吸です。腹側には同じ基本構造をもつ脚が多数並びますが、それぞれが役割を分担していました。同じ部品を“少しずつ改造して使い分ける”という設計思想です。内側の脚は歩行、口に近い脚は食物の処理、外側の脚は水中での呼吸に関与しました。つまり三葉虫は、一つの構造で「移動・食事・呼吸」を同時に成立させていたのです。
感覚器もまた柔軟でした。多くの種は複眼と触角を持ち、周囲の環境を広く感知できました。しかし、暗い海底や泥の中に適応した種では、目が退化して失われることもありました。ここで重要なのは、「視覚の強さ」ではなく「感覚器を環境に合わせて作り替える能力」こそが成功要因だったという点です。
三葉虫の本質は、「完成された器官を持つこと」ではありません。むしろ逆で、同じ基本パーツを状況に応じて再設計し続ける“モジュール型の体”にありました。脚や付属肢は共通設計を持ちながら、位置ごとに形と機能を変え、必要に応じて役割を最適化していきました。
この結果、三葉虫は驚くほど多様な生活様式を獲得しました。海底を歩くもの、泥に潜るもの、水中を泳ぐものなどが現れ、食性も堆積物食、腐肉食、濾過食、捕食へと広がりました。三葉虫は単なる「海の一員」ではなく、捕食者・掃除屋・被食者という複数の役割を同時に担う、生態系の中核的存在だったのです。
そして何度もの大量絶滅を乗り越えて長く生き続けた事実は、この設計の強さを裏付けています。三葉虫の成功の本質は「最強の器官」ではなく、「既存の体を組み替え続けられる構造」だったです。見る・動く・食べる・守るといった機能が分離せずに結びついていたからこそ、三葉虫は環境の変化に応じて姿を変え、多様な生態系へと広がることができ、全て生物種の中で最も長期に渡り繁栄する事ができたのです。
参考文献
1. Musser JM, et al. Profiling cellular diversity in sponges informs animal cell type and nervous system evolution. Science. 2021.
神経系も筋肉ももたない淡水カイメンを単一細胞RNA解析し、18種類の細胞型を同定した。消化細胞に接する分泌性「ニューロイド細胞」は、後のシナプスに利用される分子群と微細構造を備えていた。神経系が摂食を調節する古い細胞間通信から進化した可能性を示すが、同細胞自体は神経細胞ではない。
2. Schultz DT, et al. Ancient gene linkages support ctenophores as sister to other animals. Nature. 2023.
有櫛動物(クシクラゲ類)、カイメン、動物に近縁な単細胞生物の染色体規模ゲノムを比較した研究。稀でほぼ不可逆な遺伝子連鎖の融合を手掛かりに、有櫛動物が他の全動物の姉妹群であることを支持した。ただし、神経系が独立に進化したのか、カイメンで失われたのかまでは決定できない。
3. Steinmetz PRH, et al. Independent evolution of striated muscles in cnidarians and bilaterians. Nature. 2012.
筋収縮関連遺伝子の系統分布と発現を比較した研究。収縮装置の中核は単細胞祖先から存在した一方、刺胞動物の横紋筋は、左右相称動物で重要なトロポニンやタイチンなどを欠いていた。両者の横紋筋は、共通の古い収縮装置に異なる部品を加え、独立に類似構造へ進化した可能性を示す。
4. Paterson JR, et al. Acute vision in the giant Cambrian predator Anomalocaris and the origin of compound eyes. Nature. 2011.
約5億1500万年前のアノマロカリスの眼化石を解析し、片眼に少なくとも1万6000個の個眼を備えた巨大な複眼を復元した。現生節足動物に匹敵する視力が推定され、複眼が硬い外骨格より先に成立したことを示す。鋭い視覚をもつ捕食者の出現が、カンブリア紀の捕食―被食の軍拡を促した可能性がある。
5. Ma X, et al. Complex brain and optic lobes in an early Cambrian arthropod. Nature. 2012.
約5億2000万年前の節足動物Fuxianhuiaに保存された脳と視葉を記載した研究。三分された脳、触角神経、三つの入れ子状視覚中枢など、現生の昆虫や甲殻類に似た構造を認めた。複雑な視覚情報処理系が節足動物の進化初期に成立していたことを示すが、化石軟組織の同定には解釈の余地がある。
6. Murdock DJE, et al. The origin of conodonts and of vertebrate mineralized skeletons. Nature. 2013.
放射光X線断層撮影により、パラコノドントと真正コノドントの歯状要素を比較した研究。両群の段階的関係を示す一方、コノドントの冠組織と脊椎動物のエナメル質は独立に進化したと結論した。歯が顎より先に生じたという「内から外へ」仮説を退け、外皮の形成能力が口腔へ広がったとするモデルを支持する。
7. Gai Z, et al. Galeaspid anatomy and the origin of vertebrate paired appendages. Nature. 2022.
シルル紀の無顎類Tujiaaspisの全身化石を解析し、鰓部から尾部まで連続する左右一対の腹外側鰭を発見した。流体計算では、この鰭が受動的に揚力を生むことが示された。対鰭は最初から胸鰭と腹鰭として別々に生じたのではなく、連続した側方鰭が前後に分化したという「鰭ひだ仮説」を支持する。
8. Gillis JA, et al. Developmental evidence for serial homology of the vertebrate jaw and gill arch skeleton. Nature Communications. 2013.
ガンギエイ、サメ、ヘラチョウザメの胚で、顎弓、舌弓、鰓弓に共通するDlx遺伝子の発現様式を示した。運命追跡でも、対応する領域から各弓の背側・腹側骨格が形成された。顎と鰓弓骨格が共通の発生設計を反復利用する相同構造であることを支持するが、完成した鰓弓がそのまま顎へ変化したことを意味しない。
9. Dupret V, et al. A primitive placoderm sheds light on the origin of the jawed vertebrate face. Nature. 2014.
初期の板皮類Romundinaの頭蓋を放射光マイクロCTで三次元復元した研究。顎口類型の顔面配置をもちながら、頭蓋と脳の比率には無顎類的特徴を残していた。顎の成立が単なる器官の追加ではなく、鼻器、下垂体、神経堤由来組織、脳の配置が段階的かつ部分的に独立して再編された過程であることを示す。
10. Boyle RA, et al. Stabilization of the coupled oxygen and phosphorus cycles by the evolution of bioturbation. Nature Geoscience. 2014.
生物撹拌と海洋の酸素・リン循環の関係を、生物地球化学モデルと地質記録から検討した研究。動物が海底を掘り混ぜると有機リンの埋没が増え、海水中のリンと酸素が減少する一方、低酸素化が撹拌を抑える負のフィードバックが生じると示した。初期カンブリア紀の物質循環を安定化した可能性を論じるが、結果はモデルの仮定に依存する。
