検査では異常がないはずなのに、この痛みは、、、。感覚ゲートの異常とは?

更新日:2026年2月14日

「検査をしてもどこも悪くないと言われたのに、どうしても心臓がドキドキする」「喉に何かが詰まっている感じがして離れない」 こうした症状に悩まされている方は、決して少なくありません。内科や循環器科を受診しても「異常なし」と言われ、行き場のない不安を抱えたまま「気のせいなのだろうか」と自分を責めてしまうこともあります。 しかし、近年の脳科学の研究により、これらの症状には「脳内の情報検閲システム」の誤作動という、はっきりとしたメカニズムがあることがわかってきました。今回は、私たちの脳がどのように体からの信号を選別し、なぜ「異常がないのに苦しい」という状況が生まれるのかを、専門的な視点から解き明かしていきます。

1. 脳の中の有能な門番:視床(ししょう)

私たちの体からは、24時間絶え間なく膨大な量の情報が脳へと送られています。心臓の鼓動、胃腸の動き、服が皮膚に触れる感覚……。もしこれら全てを脳が真面目に受け取っていたら、私たちの意識はパンクしてしまいます。 そこで重要な役割を果たすのが、脳の中心部に位置する「視床(ししょう)」という部位です。

情報を仕分けする「感覚ゲート」

視床は、いわば脳の「受付」兼「検閲官」です。体から届く情報の大部分を「今は必要ないノイズ」としてカットし、重要な情報だけを大脳(意識)へと通します。この仕組みを「感覚ゲート(Sensory Gating)」と呼びます。 特に、視床の周りを薄く包んでいる「視床網様核(ししょうもうようかく)」という組織が、門番の実務を担っています。ここは抑制性の神経細胞でできており、不要な情報のゲートを閉じることで、私たちが一つのことに集中できる環境を整えてくれているのです。

2. 「心臓神経症」と「咽喉部違和感」で起きていること

結論から言えば、これらの症状がある時、脳内では「閉まっているべきゲートが、特定の情報に対してだけ開きっぱなし」になっています。

内受容感覚のボリュームが最大に

通常、健康な状態では、心臓の鼓動や喉の粘膜の感覚は「ノイズ」として処理され、意識には上がりません。しかし、何らかのきっかけで脳の「島皮質(とうひしつ)」という、体の内部の状態をモニタリングする場所が過敏になると、視床のゲートが緩んでしまいます。

これが、検査では「異常なし(臓器は壊れていない)」なのに、本人にとっては「耐え難い不快感(脳が情報を拾いすぎている)」が生じる正体です。

3. 「予感」が症状を強化する:予測符号化のワナ

私たちの脳は、単に情報を受け取るだけでなく、「次に何が起きるか」を常に予測しています。

脳の予測システムの仕組み

  1. 予測する: 「また心臓がドキドキするかもしれない」と不安になる。
  2. 待ち構える: 脳が情報を拾いやすいように、ゲートを開けて待機する。
  3. 合致する: ほんの少しの鼓動を捉えた瞬間、「ほら来た!異常だ!」と脳が判定する。

これを予測符号化(Predictive Coding)と呼びます。「喉が詰まっているのではないか」という不安が強ければ強いほど、脳はその証拠を探そうとして感度を上げてしまい、普通の身体反応を「病的な症状」へと翻訳してしまいます。

4. 壊れたボリューム調節をどう直すか

脳には「可塑性(かそせい)」という、回路を作り直す力が備わっています。以下の3つのステップが有効です。

ステップ①:仕組みを正しく知る

苦痛が「気のせい」ではなく「脳のボリューム調節の不具合」であると理解するだけで、予測符号化の悪循環を断つ第一歩となります。

ステップ②:注意のスポットライトを外に向ける

意識的に外側(環境)へと注意を向け直します。「外の音を3つ探す」「物の色を観察する」ことで、脳に外部情報の処理を優先させます。

ステップ③:マインドフルネスの活用

不快な感覚を「ただの信号」として客観的に観察し、評価を下さずに流す練習は、島皮質の過剰な反応を鎮める科学的な手段となります。

おわりに:身体の声との付き合い方

心臓神経症や咽喉部違和感は、体が壊れているサインではなく、脳があなたを守ろうとして少しばかり過敏になっている状態です。 「異常がない」という言葉は、決してあなたの苦しみを否定するものではありません。「ハードウェア(臓器)は無事だから、ソフトウェア(脳の情報処理)を整えていこう」という前向きなスタートラインなのです。 脳のゲートを適切にコントロールする術を身につければ、再び穏やかな日々を取り戻すことができます。