抗うつ薬・向精神薬の妊娠への影響
(2026年版)
抗うつ薬・向精神薬の妊娠への影響(2026年版)
1. 妊娠と薬:一般事項
自然流産の確率は、全年齢平均でおよそ15%と言われています。35歳を超える頃より増え始め、35~39歳では20%、40歳以上では40%が流産に終わるとされています。また、出生児の先天異常の自然発生率は、2~3%です。 【妊娠時期と危険度】 ・受精から2週間(妊娠3~4週):「全か無か」の時期。障害は修復されるか、胎芽死亡に至るかのどちらかです。 ・妊娠4~10週(器官形成期):薬剤の暴露に最も影響される時期。心血管奇形(4~7週)など、臓器により影響時期が異なります。 ・妊娠11~15週:主要器官の形成は過ぎていますが、分化が続く一部の部位で奇形のリスクが残ります。 ・妊娠16週~分娩:形態的奇形のリスクは非常に低いですが、胎児の機能的成長や発育に影響する可能性があります。 ・分娩直後:新生児薬物離脱症候群(PNA)が問題となる時期です。母体で代謝されていた薬が急激に消失することによる不適応反応(呼吸障害、痙攣など)が見られることがあります。2. 男性側の暴露による影響
精液中の薬剤濃度は血中の数倍〜10倍程度ですが、母体が吸収する量は理論上0.001%以下と推定されます。男性の薬物暴露が胎児に直接的な形態異常(奇形)を引き起こすという疫学的エビデンスはなく、無視できるレベルと推測されています。3. 抗うつ薬の影響
(1) 三環系抗うつ薬:かつては安全視されていましたが、近年の大規模研究では心血管性奇形が非暴露群と比べ1.6~1.8倍程度のリスク増加を示唆する報告もあります。ただし、絶対的なリスクは依然として低いです。 (2) SSRI: ・パロキセチン(パキシル):心血管奇形のリスクが1.24~1.72倍程度増加するとされ、計画妊娠では避けるのが一般的です。 ・セルトラリン(ジェイゾロフト):多くのレジストリで有意なリスク増は見られず、SSRIの中で最も安全性が高い薬剤の一つと目されています。 ・エスシタロプラム(レクサプロ):シタロプラムのデータを含め、催奇形性という観点では比較的安全な薬剤として認識されています。 (3) SNRI・NaSSA: ・ベンラファキシン・デュロキセチン:症例が蓄積されており、現在のところ自然発生率を有意に上回るリスクは実証されていません。 ・ミルタザピン(リフレックス):症例数はまだ少なめですが、現在の知見では明らかなリスク増は見られていません。4. 抗不安薬・睡眠薬
(1) 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系):かつての口蓋裂リスクは大規模メタ解析によりほぼ否定されています。一般の発生リスクを大きく上回ることはないと考えられていますが、出産直前の服用による新生児の筋緊張低下(スリーピング・ベビー)には注意が必要です。 (2) 睡眠薬:ベンゾジアゼピン受容体作動薬も抗不安薬と同様の評価です。新規のオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ、デエビゴ)等は、動物実験では安全性が高いものの、ヒトでの大規模データがまだ十分とは言えません。5. 感情調整薬・抗精神病薬
(1) リチウム(リーマス):エブスタイン奇形のリスクは、最新知見では1000例に6例(0.6%)程度と、以前の想定より低いことが判明しています。現在は「絶対禁忌」ではなく、病状により継続も検討されます。 (2) バルプロ酸ナトリウム(デパケン):用量依存的に神経管閉鎖不全やIQ低下のリスクがあるため、妊婦への投与は原則禁忌です。 (3) ラモトリギン(ラミクタール):抗てんかん薬・気分安定薬の中では催奇形性が低く、比較的安全に使用できると考えられています。 (4) 抗精神病薬:第2世代(リスペリドン、オランザピン等)において、わずかな心血管奇形増の報告もありますが、背景因子の影響も大きく、過度な懸念は不要とされています。むしろ妊娠糖尿病などの代謝面への注意が推奨されます。※本内容は事象の特性上、ほぼ全てが観察研究に基づく知見であり、エビデンスレベルは必ずしも高いとは言えません。実際の治療に際しては、必ず主治医とご相談ください。
