双極症治療の基本
気分の波を整え、自分らしい暮らしを守るために
1.治療の目標は、安定した日常を取り戻すこと
双極症は、気分が高揚し、活動性が過剰になる「躁状態」や、それより程度の軽い「軽躁状態」、気分が落ち込み、意欲が低下する「うつ状態」などが現れる病気です。単なる気分屋という性格や、意志の弱さで説明できるものではありません。 躁状態では、睡眠が少なくても平気になり、話し続けたり、買い物や仕事を際限なく増やしたりします。本人には「絶好調」と感じられることもありますが、判断力が低下し、生活に大きな影響が及ぶ場合があります。 治療の目標は、今の症状を和らげることに加え、再発を防ぎ、本人が大切にしている生活を続けられるようにすることです。薬物療法を柱に、生活リズムの調整と心理的・社会的な支援を組み合わせます。米国国立精神衛生研究所(NIMH)2.薬は、症状と再発の両方に働きかける
治療には、リチウムなどの気分安定薬や、一部の非定型抗精神病薬が使われます。「抗精神病薬」という名前でも、気分の高揚や落ち込みを整える目的で用いることがあります。躁状態、うつ状態、再発予防では適した薬が異なるため、これまでの経過や副作用も考慮して選びます。 注意したいのは、双極症のうつ状態とうつ病では、薬の使い方が異なることです。抗うつ薬によって、躁状態への切り替わりや気分の不安定化が起こることがあり、原則として抗うつ薬だけで治療することは避けます。使用する場合も、必要性を慎重に判断します。 診察では、落ち込んだ時期だけでなく、過去に「眠らなくても元気だった」「活動が普段より明らかに増えた」時期がなかったかを伝えることが大切です。NIMH3.調子がよい時期にも、治療を続ける
症状が落ち着くと、「もう薬はいらない」と思うことがあります。しかし、安定しているのは治療の効果かもしれません。自己判断で急に中止すると再発の危険が高まるため、変更は主治医と相談して進めます。 一方、副作用を我慢し続ける必要はありません。眠気、体重増加、手の震えなどが気になる場合は、生活への影響を具体的に伝えましょう。薬の種類や量を調整できる場合があります。 リチウムでは、血液中の薬の濃度、腎臓や甲状腺の働きなどの定期的な確認が必要です。薬によっては体重や血糖、脂質も調べます。検査も、安全に治療を続けるための一部です。NIMH「精神疾患の薬物療法」4.睡眠と生活リズムを守る
双極症では、睡眠不足や生活リズムの乱れが、症状の悪化に関わります。毎日の起床・就寝、食事の時間をできるだけそろえ、徹夜や予定の詰め込みを避けましょう。仕事では、夜勤や長時間労働の調整が必要な場合もあります。 特に注意したいのが、「睡眠時間が減ったのに疲れない」という変化です。躁状態の始まりかもしれません。元気だからと活動を増やす前に、早めに主治医へ相談してください。寝つくための飲酒や、カフェインのとりすぎも避けたい習慣です。英国国民保健サービス(NHS)5.休養、食事、運動を無理なく整える
うつ状態でつらいときには、仕事や家事の負担を減らし、休養できる環境をつくります。回復に合わせて、食事や身の回りのこと、短い散歩などから少しずつ日常の活動を戻していきます。 躁状態では、本人が休む必要を感じにくいため、周囲と相談して予定や刺激を減らし、休息と睡眠を確保します。 栄養の偏りを避けた食事と、体調に合った適度な運動は、身体の健康を支えます。ただし、食事や運動だけで双極症を治療できるわけではありません。「毎日完璧に実践する」という新たな負担をつくらず、続けられる範囲を探しましょう。NHS6.病気を知り、再発のサインを見つける
病気の特徴と対処法を学ぶ「心理教育」も、治療の大切な要素です。睡眠時間、気分、活動量を簡単に記録すると、自分の変化に気づきやすくなります。 「買い物が増える」「連絡を次々に送る」「人に会うのがつらくなる」など、再発のサインは人によって異なります。普段の状態との違いを知り、どの変化があれば相談するかを決めておきましょう。 認知行動療法や、対人関係と生活リズムに働きかける心理療法なども、薬物療法と組み合わせて、ストレスへの対処や再発予防を支えます。NIMH7.一人で抱えず、支援を使う
本人の了解を得て、家族など信頼できる人と病気の特徴を共有しておくと、早めの受診につながります。調子のよい時期に、悪化した際の連絡先や、買い物・仕事上の大きな決断への対応を話し合っておくことも役立ちます。 死にたい気持ちが強い、興奮や衝動的な行動で安全を保てない場合には、速やかに医療機関へ連絡し、差し迫った危険があれば救急につなぎます。入院が必要になることもあります。NHS双極症は長く付き合うことの多い病気ですが、治療と支援によって、安定した生活を送ることは十分に可能です。症状だけでなく、仕事、家族との時間、楽しみなど、自分にとって大切な目標も主治医に伝えながら、続けられる治療を一緒につくっていきましょう。
